第5話 お風呂

「あー、気持ちいいー」
お風呂に入って、必ず最初にこう言うのだ。

その日も「あー、気持ちいいー」と、湯船につかりながら叫び、のんびりと体をリセットさせているような気持になっていた。

ネコのあなたの呼ぶような声が、洗面所兼脱衣所のドアの外からする。

ワーワー鳴いている。

風呂から出て、ドアを開けると冷気と一緒に恐る恐るあなたが入ってきた。
しっぽを太く、目を真ん丸にさせて。

「大丈夫だよ。」私はなるべく優しく明るい調子で言った。
笑顔すら、見せてみた。

それなのに、あなたは「そこに居たら、危ないから!早く出て!」と、焦った様子で鳴いている。

危険だと、思っているのだ。
あなたの嫌いなお風呂だから。

仕方なく私はなるべく急いで頭と体を洗い、ビチョビチョとお湯をたらしながら脱衣所へ出た。

「早く部屋へ行こう!」とせかすあなたの声と合唱するドライヤーの音。
「ちょっと、待って!すぐに終わるから!」と、私の声。
脱衣所がやかましくなる。
いつものボサボサのクセッ毛の頭をできるだけ落ち着かせるように乾かして、部屋に戻ろうとしたら、あなたはホッとした様子で走って部屋の前で待っている。

「お風呂くらい、のんびり入らせてよー。」と、言いながら私は悪い気はしないのだ。

あなたに心配されたのが少し嬉しくて、あなたは水を、わたしはレモンを少し入れた水をゴクリと飲んだ。

コメント

声を聞いたらお風呂より猫ちゃんを優先してしまいますね 健気で何だか微笑ましいですね
じゅん | 03/24
逆に猫から見て安心な事をこちらが心配してるのもあるでしょうね(^-^)
タマコロ | 03/24
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